てんかんの治療には、発作のコントロールだけでなく、偏見による社会生活上の不利益から生じる心理的な負荷が高いため、病院心理臨床の世界では、てんかん患者さんの心理的サポートは重要なテーマとされていました。東京中央カウンセリングの代表カウンセラー・塚越友子さんは、自身もC型肝炎、うつ病を発症し、偏見をもたれた経験を持ちます。そんな塚越さんに、自身のターニングポイント(転換点)、そして、てんかんについてご意見を伺いました。
C型肝炎とうつ病を患った際には、偏見をもたれ、苦しんだ。
――まず、塚越さんのされているカウンセラーとはどんな仕事なのか、あらためて教えてください。
端的に言えば、悩みを解決する仕事です。悩んでいる人というのは、実は自分が抱えている問題を、正確に把握していないケースが多いんです。つまり、クライアントにとって本当に問題となっていることを発見すること。それが実は問題解決となる、といっても過言ではありません。私の専門は、うつ病と社会不安障害です。最近ですと、やはり上司との関係や長時間労働で悩んでいる方が多い印象があります。
――そんな塚越さんにとって、ターニングポイントになった出来事は何ですか?
私は新聞記者になることを夢見て、ずっと生きていました。しかし就職活動に失敗し、その夢に敗れてしまいました。これがひとつ目のターニングポイントです。そこから編集プロダクションに入社し、タイアップ記事の受注率トップを獲得したのですが、目の前の仕事に必死に向き合うことで、どうにかして自分の劣等感を払拭しようと必死でした。
――カウンセラーになる前には、病気をされたこともあったそうですね。
はい。C型肝炎とうつ病を経験しています。そのことが、いまの私がある上で、いちばん大きな意味を持っていると感じます。当時は、C型肝炎もうつ病も、世間にあまり理解されておらず、公言すれば偏見をもたれるような状況でしたし、実際に差別された経験もあります。さらにカウンセリング、という言葉もいまほど浸透していませんでしたから、うつ病を治療することにも非常に苦労しました。うつ病になると、朝が本当に辛いんです。『また今日が始まってしまった』という苦しさからスタートし、夕方くらいから元気になってくる。そのリズムに合う仕事は何かと考えたときに、ホステスという職業に出会い、会社員から銀座のホステスに転身しました。
――そうして銀座でナンバーワンになりました。
私自身、大学で社会心理学を学んでいたことと、カウンセリングの勉強を始めたことが、ホステスとしての接客業に活き、ナンバーワンになることができました。ホステスの前は、大手企業の広報室長をしていた時代もあり、ホステスの次の仕事は、私自身がカウンセラーになって、“カウンセリング界の広報になりたい”と思うようになりました。そこにはやはり、もっと早くカウンセリングという存在を知っていれば、もっと早くうつ病から快復できたかもしれない、という私の思いがあります。
てんかんだけでなく、病気にまつわる偏見は“無知”が生んでいるケースが多くある。
――その後、「ホステス出身のカウンセラー」という異色のキャリアが注目され、現在は多くのメディアに出演し、まさに“カウンセリング界の広報”として活躍されています。そんな塚越さんにとって、『てんかん』とはどんな病気だとお考えですか?
やはり偏見の強い病気だと思います。臨床心理学を学ぶと、てんかんについてもしっかり学ぶことになります。それほど臨床心理学とてんかんというのは、密接な関係に昔からあるんです。しかし、一般には知られておらずまさに“無知が偏見を生んでいる”という状況が続いています。私自身も病気による偏見をもたれ、それによる心理的なダメージについては理解しているつもりです。当時は『病気が完治した証拠書類を提出しろ。危険性がないことを証明しろ』と言われ、非常に辛い思いをしました。
――てんかんという病気が抱える偏見は、てんかんだけの問題ではなさそうですね。
はい。悲しいですが、人間は偏見を抱いてしまう存在なんです。それを私たちは自覚し、コントロールすることが必要です。昔から病気にまつわる偏見は常に存在しています。しかしそれは“無知が生んだ誤解”であるケースです。たとえばHIV(エイズ)は空気感染しないのに、近くにいるだけで感染するという間違った知識により、偏った見方をされた事例も過去にありますよね。
――てんかんは現在、発作を70〜80%の人が薬で抑えられていることもあり、発作を目にしたことがない人も増えているように思います。そうした現状をどう感じますか?
てんかんという病気は、昔に比べると薬によって上手くコントロールできるようになり目立たなくなりましたが、てんかん患者の数が減少したわけではありません(現在も100人に1人の発症率。全国に約100万人の患者が存在)。私たちは、てんかんという病気を理解する必要がありますし、『知らなかったから偏見をもった』という理屈は許されないと思います。それに理想論ですが、てんかんへの理解が進めば、てんかん患者さんが隠す必要もなくなりますよね。気軽に打ち明けて、それを受け入れてくれる社会。それが健全ですし、そうなってほしいと心から願います。
(プロフィール)
塚越 友子(つかこし ともこ)
東京中央カウンセリング 代表カウンセラー
東京中央カウンセリング 代表カウンセラー。現在東北大学大学院博士課程前期臨床心理研究コース在学中。 東京女子大学大学院にて、社会学修士号取得。専門は社会心理学。その後、編集プロダクション、大手企業の広報室長などで勤務。しかし過労から内臓疾患をいくつも併発、薬の副作用をきっかけにうつを発症。その後銀座ホステスに転身、No.1に。うつ病がカウンセリングにより寛解したことをきっかけに、当時知名度の低かったカウンセリングを広めようとカウンセラーとして開業。現在はTVレギュラー出演、新聞、雑誌、講演など“カウンセリング界の広報”として幅広く活躍中。